領域代表からのご挨拶

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太田 順

東京大学 大学院工学系研究科 人工物工学研究センターの太田です。
ここでは、新学術領域研究「超適応」に至る歴史的経緯、研究基盤について説明したいと思います。

本領域メンバーは、以下3つの大規模研究プロジェクトを通して、本領域の基盤となる学術的成果を積み重ねてきました。

  1. 特定領域研究「身体・脳・環境の相互作用による適応的運動機能の発現-移動知の構成論的理解-(略称:移動知)」(2005~2009 年度。領域代表者:東京大学 淺間一先生)
  2. 新学術領域研究「脳内身体表現の変容機構の理解と制御(略称:身体性システム)」(2014~2018 年度。領域代表者:東京大学 太田順)
  3. 新学術領域研究「行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構(略称:適応回路シフト)(2014~2018 年度。領域代表者:福島医科大学 小林和人先生)

(1)の「移動知」では、本領域で扱う適応的な行動遂行則の再編成の枠組みを提案し、本領域で扱う予測(prediction)の重要性を示しました。また、脳神経科学等において得られる詳細かつ個別的な領域知識を、ミクロからマクロレベルのマルチレイヤで統合する新しい数理モデル化の方法論(synthetic neuroethology)を提案し、本領域の脳神経科学・システム工学融合アプローチの礎を築きました。
(2)の「身体性システム」では、身体認知と運動制御の脳内身体表現を研究対象として、様々な運動障害や神経疾患の背景には、脳内身体表現と実身体の不一致が存在し、これが異常姿勢・異常運動や異常な精神活動に大きく関係していることを明らかにしてきました。脳神経科学とシステム工学の有機的な融合を促進しました。
(3)の「適応回路シフト」では、ウィルスベクターを用いた化学遺伝学や光遺伝学等の新規神経機能探索技術を駆使し、神経系の発達や進化、神経疾患における神経機能分子や神経回路の機能転移機構について研究を進めてきました。広範囲の脳領域の神経回路網の機能再編が誘発される現象を明らかにし、「超適応の原理解明」を目指す本領域の基盤を構築しました。
本領域は、研究プロジェクト(2)と研究プロジェクト(3)の二つの領域で共通して見つかった新たなテーマ(超適応)に対し、研究プロジェクト(1)以来築いてきた脳神経科学・システム工学融合アプローチによって、研究を飛躍的に発展させるものです。

本領域は、未踏の学際的な研究領域の形成を目指しており、若い発想を有する研究者を広く歓迎します。よろしくお願いします。